「君、勉強するってことは、なかなか大変だよ。
遊びたい気持に勝たなければ駄目、克己(こっき)って言葉知っている?」
「知っています」
「自分に克って机に向かうんだな。入学試験ばかりではない。
人間一生そうでなければならない」
鮎田は、この時、何か知らないが生まれて初めてのものが、
自分の心に流れ込んで来たのを感じた。
今まで夢にも考えた事がなかったような明るいような、
その反対に暗いような、
重いどろどろとした流れのようなものが、
心の全面に隙間なく
非常に確実な速度と広がり方で流れこんでくるのを感じた。
不思議な陶酔だった。